泡立て器はホイッパーと呼ばれることもありますが、英語ではウィスク(Whisk)が一般的です。
フランス語ではフエ(Fouet)です。英語と違いすぎて留学したパリの料理学校ル・コルドン・ブルーで戸惑いました。シェフの実演で「フエ」と連発されましたから。笛?まさか、って。
それはさておき泡立て器です。はかりと並び、お菓子づくりに欠かせない2大道具のひとつの「モノ語り」、どうぞお楽しみください。
泡立て器とは:小枝の束にはじまり産業革命のころ発展
泡立て器が生まれたのは17世紀です。樺、リンゴなどの木の小枝を束ねて使っていたそうです。
アメリカに渡ったキリスト教シェーカー教徒による18世紀のレシピにはこうあります。
「樹液を含んだ桃の木をシーズン終わりに切り、束ねてケーキを作るのに使いましょう。ケーキに桃の香りが移ります」(Wikipedia 英語版より拙訳)。
いいなあ、素敵ですね。ある意味とてもぜいたくです。道具を作るところからして、お菓子にその香りが移るなんて。やってみたい。本当にできるか試したいです。
現在の針金を束ねたバルーン型の泡立て器は19世紀からです。イギリスの産業革命で経済が発展し、一気に流行したとか。
アメリカでは1961年、著名なフランス料理研究家ジュリア・チャイルドが普及の立役者になりました。
彼女は自著を宣伝するためにテレビに出演、泡立て器で卵白を泡立てました。針金の束を振り回すその姿は画面映えして「マジックのよう」と評判になったそうです。(New York Timesの記事より)
日本ではどうだったでしょうか。
生活雑誌の草分け「暮しの手帖」(昭和23年=1948年創刊)では2年後の7号(昭和25年)掲載の「誰にでも必ず出来るホットケーキ」の写真に泡立て器が写っています。もちろん一般的に広がるのはもう少し先でしょう。

Photo by Chikako TADA
私がお菓子作りに目覚めたのは1980年初頭です。家にあったのはコイル式の1本でした。バターが入り込んですごく使いづらかったのを覚えています。
いまも小さいものを持っています。上の写真右から2本目です。ちなみに一番、右の1本はマグネットつき、ステンレスなのでちゃんと使えます。どこで買ったのか思い出せません…。
泡立て器どれを選ぶ:MUJI・柳宗理・OXOをレビュー
クッキーやパウンドケーキ、クレープ、ホットケーキ(スフレタイプではなく)といった「すり混ぜる程度でよいお菓子」を作りたい人は泡立て器だけで十分です。
年に2、3回、誕生日やクリスマスにケーキを…という人は、ハンドミキサーがあるとモチベーションになります。
京都でお菓子教室を開いていたころには泡立て器を10本以上、持っていました。使ったことのある泡立て器を紹介します。
*すべての商品リンクは「Pen & Spoon」編集部の判断によって選んでいます。「Pen & Spoon」は自身のアフィリエイトポリシーにより、広告収入を得ることがあります。
無印良品
無印良品の泡立て器は29㎝、550円とサイズもお値段もお手ごろです。フックもついて吊り下げられます。5、6本は持っていました。とびぬけて使いやすい…ということはないですが不可もなく、バランスがいいですね。
柳宗理
日本が誇るインダストリーデザイナー・柳宗理の泡立て器です。30㎝、1,300円ぐらい。グリップが太く短めで安定感があります。2001年にグッドデザイン賞を受賞しています。
でもなぜか出番は多くありませんでした。洗いづらいというのもありましたが、片付けてくれる人がいたインドでもあまり使わなかったかも。
ふつうのカタチの泡立て器の中に1本だけある「この子」、デキルのは分かるのですがちょっと使いづらいというか…ああ、人にたとえるのはよくありませんが、慣れの問題です。
OXO(オクソー)
OXO(オクソー)は1990年、アメリカで生まれたキッチンブランドです。利き手や年齢に関係なく使えるユニバーサルデザインで知られています。名前そのものがユニバーサル!どこから読んでもOXOですよね。これを知ってうなったものです。あっというまに世界中のデパートにコーナーができた気がします。
泡立て器は値段(1,500円ほど)もデザインも柳宗理と似た印象です。黒くて短めのグリップが特徴です。柳宗理と違い、つかみやすいよう少し細くなっています。
グリップが短いのがちょっとマイナスですが、いま1本買うならコレにします。コンセプトからして愛せますし、まさにユニバーサルで世界中、どこでも買えるのもいいです。
マポール
マポールは業務用です。グリップも太めのステンレスです。ワイヤーも12本あって重たいです。ハンドミキサーは持たない、でもスポンジケーキを焼きたい、という人には向いています。頑丈でずっと使えます。1,300円ぐらいです。
最愛マトファーとパリの道具店MORAの話
MATFER(マトファー)
最愛は世界中のシェフが愛用する道具メーカー・マトファー社の25㎝です。

15年以上使っているマトファー社の泡立て器 Photo by Chikako TADA
留学先のル・コルドン・ブルー パリ校で入学初日、渡された道具ケースに入っていました。
もう15年ほど愛用しています。上記に挙げた泡立て器はすべて手放して日本に帰ってきましたが、1本、スーツケースに入れたのがマトファーです。
グリップは細いのですが手になじみます。ワイヤーの数もちょうどいい。洗いやすい。軽い。黄色のアクセントも好き。いかにも泡立て器というかたちも好き。
コルドンで基礎課程のころは卵6個だろうと「この子」で泡立てていました(スタンドミキサーがあるのに)。
問題はお値段で、日本では2,900円ほどします。うーんパリ土産に頼みましょうか。
フランスのオンラインショップでは13ユーロ(1800円)ほどです。
マトファーは創業1814年の老舗で、パリの道具屋街・モンマルトル通りに小売店「モラ(MORA)」があります。何度、足を運んだことか分かりません。近くに同じような道具店「ア・シモン(A.SIMON)」、「ウー・ドゥイルラン(E.DEHILLERIN)」とハシゴして…散財ロードでした。
泡立て器の持ち方:「すくいあげ」が基本 | 動画で解説
お気に入りの1本を手に入れたら使ってみましょう。
親指とひとさし指でモノをすくうように持ちます。
下の写真のような鉛筆持ちはお勧めしません。手首だけで混ぜるので疲れます。
【生クリームの泡立て方】五分立て・六分立て・七分立て・八分立てを動画で解説
卵白や生クリームの泡立ては「〇分(ぶ)立て」と表現されます。かたさのおおよその目安です。ほどほどに立てるのって意外に難しいですよね。
英語ではやわらかいツノ(Soft peaks=頂点、山頂の意味)、中ぐらい(Medium peaks)、かため(Firm/Stiff peaks)の3レベルで示されていることが多いです。
フランス語では「ツノが立つほど泡立てる」という場合、「鳥のくちばし/Bec d’oiseau(ベック・ドワゾー)」と言います。言われてみると確かに…。面白いですね。
材料
- 生クリーム 200 ml
- グラニュー糖 (てんさい糖) - 大さじ1.5 15 g
- 牛乳 - 生クリームが脂肪分40%台の場合 15 ml
作り方
- 生クリームは冷蔵庫で直前まで冷やしておきます。ボウルや泡立て器に水分がついていると泡立ちが難しくなります。しっかりぬぐいましょう。
- 生クリームの箱は開ける前に少し振りましょう。塊があればほぐれますし、泡立ちも早くなります。ボウルに入れて氷水に当てます。10分ほど置きましょう。
- 親指と人さし指ですくうようにして握ります。
- 鉛筆のように挟んで持つのは、生クリームの泡立てにはお勧めしません。大きく回せないうえ疲れます。
- 生クリームは5℃ぐらいが目安です。温度計で計らなくても氷水に当てていれば大丈夫です。
- さあ混ぜましょう!序盤は飛び散らないようにすりすりと。脂肪分40%台なら2~3分ほどで少し手ごたえが出てきます。泡立ち始めると早いので気をつけてくださいね。
- 五分立てはシフォンケーキなどに添えるソースぐらい。スポンジを浸すとしみていきます。乾燥してしまったカステラを浸して食べるとおいしいです。ゆるゆる。
- 六分立てはソース、ムースなどに。とろとろ。英語でいえばSoft peaks相当です。
- 七分立ては泡立て器ですくうと落ちるぐらい。とろり。ケーキに塗ります。英語ではMedium相当です。
- 八分立てはケーキに絞り出せるぐらい。ピンとなってからゆるーくおじぎします。英語ではFirm,Stiff相当です。「おじぎするぐらい」は日本ならではの表現ですね。
Video
Notes
- コツはよく冷やすこと(5℃)、「まだゆるいかな」と思うぐらいで止める、の2つです。
- 心配になってグルグルし続けると、あっというまに立ってしまいます。
- 脂肪分が高いほうがコクがあり、早く泡立ちます。カロリーが…と言う方は牛乳を足せばOK(水増しならぬ乳増し)です。
- 泡立てた生クリームは冷凍できます(そのまま冷凍だと泡立たなくなります)。インドにいたころは1リットル入りの生クリームしか手に入らず、まとめて泡立ててファスナー付き袋に分け、平らにのばして冷凍していました。ポキポキ必要な分だけ取り出せます。
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