「黙らせサブレ」は私の最初の本「パリ砂糖漬けの日々: ル・コルドン・ブルーで学んで (Pen & Spoon)」(文藝春秋、2020年にKindle出版で復刊)で書きました。2冊目の「おやつ新報へ、ようこそ。」で詳しいレシピを紹介しています。

Index
サブレとは:フランス語で「砂の」意味。作り方に由来
サブレ(Sablé)はフランス語で「砂の」という意味の形容詞です。英語ではSandyです。
お菓子がなぜ砂? 答えは作り方にあります。
サブレの材料である粉と砂糖、バターと卵を細かく砂状になるように切り混ぜ、生地をつくることから名づけられました。
この作り方を「サブラージュ(sablage)」と言います。
サブラージュ製法でなくても、フランス風のクッキーはこう呼んでいる感じです。
ちなみに鎌倉・豊島屋の「鳩サブレー」は明治生まれでハイカラな感じを出すために「サブレー」になったのでしょうね。
豊島屋HPによると「鳩サブレー」は初代当主が店を開いた明治30年ごろ(1890年~)、来店した「異人さん」から大きなビスケットをもらったのがきっかけで生まれたそうです。
試作品を食べた欧州帰りの船長が「これはフランスで食べたサブレーに似とる」と言ったとか。「鳩サブレー」と名づける由来となったようです。「サブレ」ではなく「サブレー」なのもいいですよね。
クッキーとは:米英語、日本では「手づくり風ビスケット」

クッキーはアメリカ英語ですね。イギリスではCookieと呼ばずビスケットです。
「クッキー食べよう」と言われるとどんなお菓子を想像するでしょうか。
私なら大きなチョコチップクッキーやアイシング(砂糖がけ)された型抜きクッキーを思い浮かべます。前者はアメリカでのCookie、後者は日本での使われ方ですね。
製菓メーカーでつくる一般社団法人全国ビスケット協会の規約によると、クッキーとはビスケットのうち「手づくり風」の外観をしていて、糖分と脂肪分の合計が重量の40パーセント以上のも のをさすとしています。
サブレとのちがいは定義があるわけではありません。サブレはフランス風、サクサクしてシンプルなイメージです。
フランスでもアメリカンタイプの大きなクッキーはサブレといわず、そのままCookiesとして売り場に並んでいます。Les cookies(レ・クッキー)と冠詞もつけられていますね。
そういえば小学生のころ「ぶきっちょさんのクッキーパーティー」というレシピ本を愛読していました。ぶきっちょでは決して作れそうもないドールハウスやアイシングクッキーの写真にあこがれたものです。なつかしいです。
ITの世界でCookieといえば、アクセスしたウェブサイトによって作成され、一時的に保存される情報のことをさします。
これこそなぜ「クッキー」なのでしょうか。正確には「マジック・クッキー」で、語源については食べるクッキーからきているとの説が多いようです。(ロッテのサイトが詳しいです)
ビスケットとは:もとは「二度焼き」の意味。かるい焼き菓子
ビスケットが一番、やっかい(?)です。
日本で「ビスケット」というと登山に持っていくような、クッキーよりは軽くてかたいイメージではないでしょうか。
全国ビスケット協会の規約では、糖分と脂肪分が重量の40%未満をビスケットと定めています。たしかにその通りです。
フランス語でビスケットはBiscuit、英語と同じつづりで「ビスキュイ」と発音します。
ちなみに「Bis」はラテン語で「繰り返す」の意味、cuitは「焼く」との意味なので、語源的には「二度焼き」になりますね。
フランスでも日本の「ビスケット」同様、小さな焼き菓子も「ビスキュイ」と呼ばれます。やはりサブレに比べるとかるい食感のものが多い気がします。
有名なのはフランス北部シャンパーニュ地方の「ビスキュイ・ローズ・ド・ランス」です。フランス土産の定番ですね。カサカサした食感で、シャンパーニュに浸して食べます。
ただパティシエの世界で「ビスキュイ」というと、やわらかくて軽いシート状の生地も「ビスキュイ」と呼びます。
アメリカではイギリスでいうところの「スコーン」のことを「ビスケット」と言います。日本でもKFC(ケンタッキーフライドチキン)が「ビスケット」として売っていますね。
日本のスターバックスでは「バターミルクビスケット」と「チョコチップスコーン」と両方、売られています。ああサブレから横道に…続きはスコーンのレシピの回に。
永遠の定番:パリのパン屋の「おしおき」サブレ
創業1932年のパリのパン屋・ポワラーヌ(Poilâne)のレジ脇アイテムがサブレ「ピュニスィオン(Punition)」です。おしおき、という名前なのも愛らしい。
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「おしおきよ」と言ってこのサブレが子どもたちに渡されたことが由来だそうですが、おしおきと思ったらおいしいサブレだったなんて、笑顔が二倍増しになったことでしょう。そんなストーリーも、いいですよね。
店ではガサッと袋に詰められて並んでいます。グラム売りなので言えば袋に詰めてもくれます。オンラインでは500g15ユーロでした(100g3ユーロ、2020年8月現在)。
お店で買うなら「よく焼けたのだけ」などとオーダーも可能です。バケットの注文と同じですね。
袋にもよく焼けたの、色白さん、といろいろ入っています。私はちょっと焼き色がついたほが好きなので、いつもその袋を選んでいます。
日本だと焼きムラがない=上等とされます。
でもフランスだとそうじゃありません。同一、均一じゃなくていいじゃないか、違っていてナンボという姿勢、サブレからも感じられます。大好きです。
自分用には袋で十分ですが、ちゃんと箱入りもあります。定番は菊型ですが、ギフト用にスプーン型やテニスボール型!(ローラン・ギャロス=全仏オープンの時期限定)も登場します。
永遠の定番、やっぱりベストオブベストです。シンプルで飽きがこない。子どももオトナも大好きです。
黙らせサブレとは:パリで習った「ディアマン」がもと
フランスではシンプルなサブレを「ディアマン」と呼びます。ディアマンとは「Diamant」、ダイヤモンドの意味です。素朴なサブレにどうしてこんな派手な名前がついているのでしょうか。
パリの料理学校でシェフからも聞いたのが「ふちにまぶしたお砂糖がキラキラ輝いて見える」ことから名づけられたとのことです。私のレシピも料理学校で習った「ディアマン」がベースとなっています。
友人の子どもが私が作ったディヤマンを食べて泣き止み、「黙らせサブレ」と呼ぶようになりました。
ショーヤンがサブレに夢中になった。
母であるエミゴは「黙らせサブレ」と呼んだ。パリの地下鉄や食堂で二歳児がぐずり始めると、はいはい、おひとつサブレ、めしあがれ。するとアラ不思議、ピタリと泣きやみサブレを一枚、二枚とほおばり出すのだ。
(中略)
私がサブレ作りの天才なわけがない。(中略)素材かいいのか、パリという場所の力か。不思議なほどおいしかった。【パリ砂糖漬けの日々: ル・コルドン・ブルーで学んで (Pen & Spoon)より】
パリ生まれの「黙らせサブレ」、ぜひつくってみてくださいね。YouTubeでは棒状にするプロセスを特に詳しくご覧いただけます。
黙らせサブレのレシピ
材料 | Ingredients
- 110 g 発酵バター(食塩不使用)
- 50 g グラニュー糖 (てんさい糖)
- 160 g 薄力粉
- 20 g 卵黄 - 1個分
- 3 g 塩
- 1 個分 レモン皮 - なくてもOK
- 30 g 中ザラ糖かグラニュー糖 - 大さじ2/なくてもOK
- 打ち粉(できれば強力粉) - 大さじ1
作り方 | Instructions
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バターは3~4つに切って室温におきます。卵も冷蔵庫から出しておきます。
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バターと砂糖をボウルに入れます。泡立て器で練ります。
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レモン皮を削りながら加えます。
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泡立て器でよく練ります。バターのかたまりがなくなればOKです。
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卵黄と白身を分けます。白身が少々入っても大丈夫です。バターのボウルに加えます。
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泡立て器でよく練ります。クリーム状になればOKです。
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薄力粉と塩をふるい入れます。
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ゴムベラで切るように混ぜます。
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練らずに砂状にします。
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しっとりしてきたらひとまとめにします。
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手のひら大にまとめてラップに包みます。冷蔵庫で1時間以上、休ませます。
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ふたつにカットします。打ち粉をふって転がし、直径3㎝ほどの棒にします。
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最初はかたくて転がしづらいですが、そっと肩をもむように両手で転がしてください。
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ラップに包み直して冷蔵庫で15分ほど休ませます。べたつかなくなります。
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厚さ7~8ミリ幅に切ります。
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まるくかたちを整えます。
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あれば中ザラ糖かグラニュー糖をまぶします。
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冷めてから空き缶やファスナー付き袋に入れます。できたら冷蔵庫で保存しましょう。
Video
Notes
- 生地はさわるたびに休ませて。サクサク感とのど越しがやっぱり違います。
- お好み焼き状にして1時間以上冷蔵庫に置いた場合、かたいので少し常温に置いてから棒状にしてください。
- 天板に並べた後、少し真ん中をくぼませると焼き上がりがきれいです。
- できれば発酵バターを使うとおいしいです。有塩バターでもOKですが塩を入れないでください。
- 薄力粉だけだと軽いかみごたえになります。薄力粉160gを薄力粉100g、中力粉を60gにするとほろほろ、パリの味になります。
- レモン皮は防カビ剤を使っていないものを削り入れてください。なくてもかまいません。
- 保存するなら常温より冷蔵をおススメします。

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