「インドのデザートは甘さ強烈」との常識を覆すナチュラルアイス

Natural Icecream

インド料理のデザートといえば何を思い浮かべるでしょうか。カルダモンが効いたミルクがゆ「キール」や強烈に甘い(一説には「世界一甘い」)スポンジのシロップ漬け「グラブジャムン」などが知られています。「クルフィ」と呼ばれるアイスもあります。インドの首都デリー近郊に7年、住んだ私のおすすめは「Natural Icecream」(Naturalsとも)です。好きすぎて365日通いたい。詳しく紹介します。

目次

ナチュラルアイスとは:ムンバイ発のアイスクリームチェーン

ナチュラルズの1号店は1984年、インドの商都ムンバイにオープンしました。創業者は南インド・カルナータカ出身の果物売り・Raghunandan Kamath氏です。7人兄弟の末っ子で、兄たちのレストランを手伝っていました。結婚をきっかけに自身のビジネスに乗り出したそうです。

インドの経済紙「Mint」によるとオープン時のフレーバーは5種類だけでした。シタファルという果物(Sitaphal。英語ではシュガー・アップル、日本語では釈迦頭とも。ねっとりした味わい)、カシューナッツ&レーズン、マンゴー、チョコレート、イチゴです。「母の台所がインスピレーションの源」と答えています。

まだアイスクリームが高級品だった時代、ボリウッドスターやクリケット選手の人気を集めたそうです。

10年ほど1店だけでしたが1994年、親族が近くに競合店をオープンさせたことからフランチャイズ経営に転換します。同じころインド経済自由化の波が押し寄せ、Baskin Robbinsなど外資系の参入も始まりました。

もともと強いAmulといった国民ブランドもあります。危機感を強めたナチュラルズは品質にこだわりました。使う牛乳や果物も長年、付き合いのある業者から仕入れ、工場も目の行き届く一カ所のみです。

「Fruits,Milk and Sugar」で検索すると、あなたが探しているのは「Naturals Icecream」と訊き返される…というさりげなくニクイPRです。ホントかな。やってみましたがさすがに(日本だから?)出ませんでした。右上の緑の日の丸はインドではおなじみ「ベジタリアン用」食品を示します。卵は使っていない、ということですね。

彼らの哲学としてWebでも「Purposefully slow(わざとゆっくり)」を掲げています。

ナチュラルアイス、どこにある?インド全土に130店

創業から37年目の現在、インド全土に130店ほどあります。首都デリーには2014年10月、1号店がGK2にオープンしました。

インドらしくあっというまに店を増やすかな?と思いきやそうでもありませんでした。彼らの哲学通りSlowlyでした。インドの低温物流(コールドチェーン)は発達していないせいもあると想像します。

どこのお店もポップな感じです。ロゴは…ちょっとやぼったいのですが。

私が住んでいたデリー近郊グルガオンに進出したのは2017年末です。待ってました、デリーまで行かなくていい!とガッツポーズしました。「ガレリア」という小さい店が詰まったマーケットの一角で、邦人にも人気です。よく知人にバッタリ会いました。

ナチュラルズのサイトでは2021年1月現在、デリー首都圏には9店(うちグルガオン2店)あります。

英調査会社「Global Data」によるとインドのアイスクリーム市場は2023年、29億ドル(約3000億円)規模になり、年12%の成長と予想しています。

ナチュラルズのフレーバー:インド的「にんじんがゆ」味も

私が最初にナチュラルズに行ったのはデリー1号店のオープンから半年後でした。コドモがクラスメートの誕生パーティーに招かれ、手土産として500g入りの箱を買いました。

でも実をいうと第一印象はよくありませんでした。ピスタチオにつられて買ったのですがサフラン(Kesar)入りで…なじめない味でした。ちょっと独特です。シーズンごとにインド菓子をモチーフにした味が発売され、いつも試食を勧められます。

下の写真は季節限定「にんじんのハルワ(Gajar Halwa)」味が出たよ~、と知らせる店内ポスターです。にんじんのミルク煮です。私は苦手でしたがインド料理好きにはいいのかもしれません。

インドらしいフルーツも使っています。創業時からの定番シタファルに加えてChickoo(チクー、甘い果物)、Kala Jamun(黒いプラム)、グアバにジャックフルーツ…日本では珍しい果物も多いですね。

ハルワ味

Photo by ChikakoTADA

 

ナチュラルズのテクスチャー:「アイスクリン」的、あっさり

舌ざわりはハーゲンダッツ的な濃厚さとも、ジェラート的ななめらかさとも違います。さっぱりしていて「アイスクリン」という感じです。あっさりしているので毎日食べたくなります。

店内にあるモニターでは工場の動画が流れています。いつも食べながら眺めていました。マンゴーは切るところから、ココナッツも割るところから始めています。さすがインドです。加工済みのピューレなどはそもそもないか使っていないようです。

注文の仕方:お店と配達もOK、指差しが確実

注文の仕方はサーティーワンアイスクリームなどと同じです。お店に行くとまず、ケースに近づきましょう。どれがおいしそうかな…。いや何も書いてないし。

ナチュラルズ

Photo by ChikakoTADA

壁にメニューがありますが指さして「コレは何?」「コレはマンゴー?」などと聞いたほうが早いです。英語はもちろん通じます。試食もさせてくれます。何種類も試す人もいます。

選んだらレジに並びます。「ワンスクープ?」「ツースクープ?」「Cup or cone?(ワッフルコーン、10ルピー追加)」とか訊かれるので答え、おカネを支払います。

アイスクリームのお値段はどのフレーバーでもシングル65ルピー(≒90円)、ダブル130ルピー(≒180円)、ワッフルコーン10ルピー(≒14円)です。税抜なので2割増しぐらいになりますが、それでも日本に比べたらお安く、インドとしてはよいお値段です。道端の屋台なら20とか30ルピー(30~40円)とかですから。500g入りの箱は290ルピー(400円)です。

エアコンの効いた店内で食べると本当に生き返ります。

そうそうシェイクもおいしいです。160ルピー(≒230円)。2スクープ分をミキサーにかけ、1スクープを盛ってくれるので合計3スクープにもなります。月1回の満喫コースでした。

メニュー表のシェイクの欄には5種類(マンゴー、シタファル、チクー、チョコ、ピスタチオ)しか書いていません。この5種類しかシェイクにできないのかな?と思っていたのですがある日、Roasted Alomondもできる?と聞いたらOKでした。さすがインド、なくても頼めば何でもシェイクにしてくれます。ツブツブアーモンドがまた最高です。

宅配もしてくれます。が、よほど店に近くなければやめたほうが…。保冷剤も何もなく「元・アイスクリーム」が届きました。

ドロドロ

Photo by ChikakoTADA

ナチュラルズで食べたい4フレーバー

定番と季節限定をあわせると店には10~15種類ぐらいあります。マンゴーは通年ありますが5~6月のシーズンになるとマンゴーとは別に「アルフォンソ(高級品種)」が出ます。イチゴは冬限定です。イチゴ味が薄いですが(香料なしということでしょうか)。チョコレート系もチョコ味は…ほんのりです。

おススメを紹介します。

①ローストアーモンド入りミルク味(Roasted Alomond)

もう何百個たべたでしょうか。一時期はほとんど毎日です。オフィスを出てコドモを迎えに行く前、わざわざUberを降りて行っていました。食べると落ち着いて「さあもうひと踏ん張り」となりました。仕事モードから育児モードへ、ギア切り替えの儀式でした。店員さんも私の顔をみるなり、「ロースティッドアーモンド、ダブルスクープな」と言ってくれました。

マライ(Malai)フレーバーにアーモンドがたっぷり入っています。マライは弱火で牛乳を煮詰めた上澄み=クロテッドクリームのことで、濃いミルク味です。スタッフによってキレイにまるく盛る人、ドサッと、でもたっぷり盛る人といろいろです。インドですので。下の写真は美しいですね。

Roasted almond

Photo by Chikako TADA

 

②ピーチ・アプリコット(Peach-apricot)

これも好きです。やはりミルク味(マライ)ベースです。

パパイヤパイナップル

Photo by Chikako TADA

③パパイヤ&パイナップル(Papaya-pinapple)

通年メニューでミルク味ベースです。果物よりミルク味が好きです。

パパイヤパイナップル

Photo by Chikako TADA

④コーヒー&くるみ(Coffee walnut)

あまりコーヒー味はしませんが、くるみがおいしいのです。

こーひーくるみ

Photo by Chikako TADA

インドに行かれる甘党のみなさま、辛いものが苦手でもナチュラルアイスがあれば生きていけます。私も日本誘致へ向けて(?)頑張ります。

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この記事の著者

多田 千香子のアバター 多田 千香子 Pen&Co.代表取締役CEO

食メディア「Pen & Spoon」編集長。1970年、岡山県備前市生まれ。県立岡山朝日高校、岡山大学法学部卒。1993年、朝日新聞社入社。記者・編集者として12年余り勤務。2005-2007年、フランス・パリ在住。料理学校ル・コルドンブルー パリ校製菓上級課程修了。「パリのおやつ旅のおやつ」(朝日新聞出版)「パリの小さなキッチン」(レイチェル・クー著、翔泳社)など著書・翻訳書8冊を出版。辻調製パン技術講座(通信制)修了。2013-2020年、インド・グルガオン在住。インド三井物産などで勤務。コロナ禍で2020年に帰国後、食メディア「Pen & Spoon」を創刊。2023年6月、Pen&Co.(ペンアンド)株式会社を共同創業。週刊英和新聞Asahi Weekly(英文)でコラム連載。

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